2012年1月31日火曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてアドバイスをくれる。そんな彼に、将来出世できるのか聞いてみた。この癖毛を直すのに朝が忙しいのだ。重役出勤とやらをしてみたい。彼は僕の手元を指して言った。「出世はできないが大丈夫だ。そのブラシは必要なくなる」

ユックリさん

#twnovel ユックリさんは何をするにもスローなおじさんだ。食事に何時間もかけるし、1週間寝たあとは2週間は起き続けている。子供達は彼を怠け者と嘲笑った。やがて子供達は大人になり、年老いて死んでいった。ユックリさんは相変わらずおじさんのまま。その姿を子供達が囃し立てる。

日替わり

#twnovel 彼女を日替わりランチの人気店に誘った。「ごめんね、今日はパスタの気分なの」それなら僕も、と言うと睨まれた。「あなたはパスタの気分じゃないんでしょ。無理に合わせないで」無理してないよ。僕はずっと君の気分だから。そう答えると彼女は俯いて「…日替わりは許さないからね」

2012年1月30日月曜日

電話代

#twnovel 「近頃電話代が高くてねぇ」苦笑する祖母が口にした額はかなりのものだった。遠くに友人がいる訳でもない祖母が一体どこに掛けているのか気になった。「やぁねぇ。お祖父さんに決まってるでしょ」そう言えば、祖父の突然の死を隠そうと、出張に出掛けたと嘘をついたのは私だ。

#twnovel 想いは川のように枝分かれしながら流れていく。細い支流は途中で枯れ、地表に染み込んで消えてしまうこともあるけれど、それでも下へ下へと。もとより、低地の僕の想いは高地には届かない。だから僕は流れ着いた想いを受け止め続けた。いつか大きな湖を君に見つけてもらえるように。

写真写り

#twnovel 私、写真写り悪いんだよねーと言う友達に返事を言いあぐねていると、後ろから伸びた手がひょいとカメラを掴んだ。「贅沢抜かすな。俺なんて写りゃしねぇんだから」パシャ。彼は自分撮りしたカメラを私に返した。確かに背景しか写っていない。「今の誰?」振り向いても誰もいない。

クレーム

#twnovel 今年の冬は寒すぎると、サポートセンターにクレームを入れた。担当者によると、春の供給が不足しており、過去の暖冬で過剰在庫になっている冬で穴埋めしているせいだという。不足の理由を問いただすと、担当者は続けた。震災、EUの経済危機、タイの洪水、そして若者の春離れ…。

2012年1月28日土曜日

時計屋さん

#twnovel 村で唯一の時計屋さんは今日もせっせと時を刻む。彼が亡くなった日、村の時間は停止した。村人は誰もそのことに気付かない。数十年、あるいは数百年が経った。新しい時計屋さんが店に住み着き、時を刻みだした。村人達はある変化に気がつく。あれ、いつの間に時計屋さん代わったの?

リンゴ

#twnovel 待ち合わせの場所に着くと、彼女がリンゴを手にしていた。聞けば近くの青空市で調子の良いおばさんから買わされたのだという。毒々しいほどに真っ赤なその姿。毒リンゴだったりして?と僕がからかうと、彼女はするりと腕を絡ませてきた。「そしたら、キスしてくれる?」

新年会

#twnovel 「新年会の幹事、任されたんだって?」「おう、題して『新春!年忘れ新年会』だ。楽しみにしててくれ」「忘れるの早すぎだろ!」「嫌な上司やバカな役員達を弄り倒せるチャンスだぞ」「忘れてくれりゃいいんだけどな…」「…そうだな」

子供エレベーター

#twnovel 子供エレベーターに乗った。7歳で降り、出会った少年との他愛のない遊びの中であの頃の気持ちがよみがえる。出来るならずっとここにいたい。思わず漏らすと彼は目を輝かせた。「じゃ、交代な」彼はエレベーターに乗って大人になり、僕は永遠の7歳を務める。次に誰かに代わるまで。

気持ちの整理

#twnovel 「気持ちの整理がつかないんです」そう訴える私に医者は専門家を紹介してくれた。やってきた業者は実にテキパキと片付けていく。たちまち私の心はガランとなった。「私って片付けられない女だったんだね」俯く私の肩を彼が優しく抱き寄せる。「大丈夫」心の隅に一輪の花が置かれた。

手ぶれ補正

#twnovel 「手ぶれ補正機能ってあるだろ?あれと同じ原理だよ」地震の揺れを大幅に軽減する発明をした技術者の友人は言った。大地震が発生しても犠牲者が出なかったらお手柄だな。そう話すと彼は声を潜めた。「念のため、自分のバックアップはとっておいてくれ。責任は負いかねる」

2012年1月27日金曜日

物忘れ

#twnovel 最近物忘れが激しくてねと妻に話すと、私は忘れ物が多くて困るのよと言われた。それならお互い補完しよう。君の忘れ物に僕が気付き、僕の物忘れを君が指摘する。そういうことで話はまとまったのに、妻は一緒に行くはずの旅行に僕を忘れて出発し、僕は旅の予定そのものを忘れている。

ニーズ

#twnovel 新人営業マンの僕はいつも女性上司に叱られる。「あんたがやってるのは冬にクーラーを売るようなものよ。顧客のニーズを掴まないと」そう言って彼女は買ってきたアイスクリームの箱を開けた。「ま、これでも食べて元気出そう」…この季節にアイスが売れる理由が僕には分からない。

紙芝居

#twnovel 世界がオーバーフローを起こし、対応策として身の回りが紙芝居になった。1枚目で目覚め、2枚目には学校にいる。3枚目が給食で4枚目が塾。大好きなあの子の顔は5枚目でしか見れないけど、ずっと笑顔のままだから嬉しい。おしまいの文字が夕日に浮かび、僕は再び目を覚ます。

2012年1月26日木曜日

犯人

#twnovel 日本各地に雪を降らせていた犯人が逮捕されたとニュースが報じると、昼寝をしていた父が顔を出してきた。「犯人は女だろ?」え、どうして分かったんだよ?驚く俺に父は当たり前のように答えた。「雪を降らせるのは雪女に決まってるだろ。雪男にそんな芸当ができるか」

お誘い

#twnovel お昼一緒に食べない?なんて言われたものだから、午前中は仕事そっちのけでランチスポットを探しまくってた。人気店は行列ができて昼休みには厳しいし、かと言っていきなりホテルのランチも引かれそう…。12時になり、彼女が僕の席に来た。「何してんの?社食行こ」…ですよねぇ。

省エネ冷蔵庫

#twnovel 貧乏な僕は、中身が空になったのを感知して自動的に電源を切る冷蔵庫を考案した。まさに省エネじゃないか。早速製品化したがサッパリ売れない。相変わらずの貧乏生活を続ける僕のもとを訪ねてきた友人が言った。「あのな。冷蔵庫が空になることって、普通の家庭ではまずないぞ」

2012年1月25日水曜日

思い出せない

#twnovel 同窓会の立食パーティーで同じテーブルについた奴と話が弾んだ。だけど名前が思い出せない。こんなに親しく話しておいて名前を聞いちゃ失礼だよな。思案していると奴が言った。「それじゃ俺、田中に挨拶してくるから。齋藤も後で来いよ」…田中って誰だよ。それに俺齋藤じゃねぇし。

生まれ変わって

#twnovel 彼女と喧嘩。悪いのは僕だけど、生まれ変わってもまた逢おうね、なんて直前に交わした甘い言葉が馬鹿らしく思えて今さら謝れない。翌朝、初めて会った教会前のバス停に彼女がいた。僕の前に立ち、「汝は生まれ変わることを誓いますか?」朝日を浴びた仰々しい姿に、つい「Yes」。

カモシダさん

#twnovel カモシダさんは常に後悔の念に苛まれている。「あの時ああすればよかったのかも」「あれで人生の歯車が狂ったのかも」後悔の海に溺れた彼はそれでも必死にもがき続けているのだが、実行が伴わないので誰にも気付かれない。人畜無害な上、考えようによってはとてもエコな人だ。

2012年1月24日火曜日

幸せ

#twnovel 訪問販売のセールスが来た。幸せを買ってくれという。まったくくだらない。そんな金があったら家族や自分のために使う。例えば私がここで君に100万円払ったとして、誰一人幸せになんてなれるものか。販売員は言った。「そんなことはありません。少なくとも私は幸せになれます」

いいえ

#twnovel 私の質問には全て、いいえ。で答えて下さい。なお、この事情聴取はあくまでも任意ですので、あなたにはいつでも拒否する権利があります。それでは今から嘘発見器を使った事情聴取を行います。よろしいですね。「いいえ」

サイコロ昼食決定システム

#twnovel サイコロ昼食決定システム。3つのサイコロの目にそれぞれ主食と副食と汁物を割り当てる。出た目で昼食の組み合わせが決まる仕組みだ。まずは麺類で試してみよう。出た目は絶対。それがルールだ。「どうしてお前、パスタに天ぷら載せてとんこつスープかけてんの?」

矛盾

#twnovel 「今を悔いなく過ごせ」「目先のことばかり考えず将来を見据えろ」大人の言うことは矛盾だらけで、だから僕らはやりきれない日々を過ごしている。「あの頃は良かった」それが肯定の言葉ではないことはおぼろげに理解できるけれど、君とこのまま一緒にいていいのかは分からない。

2012年1月23日月曜日

ハザマさん

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、僕が食中毒で病院に運ばれた未来を見てきたと言う。いつ?何を食べたのと聞いても教えてくれない。やがて彼はポツリと言った。「我慢しな。最初はひどいけど結婚したら料理上手になるから」

ネックレス

#twnovel 彼女の部屋で仲良く写真鑑賞。2人で行った旅行先などに加え、時折僕の知らない彼女の日常風景が顔を出す。見覚えのない場所に立つ彼女の胸元には、せがまれて先日プレゼントしたばかりのネックレス。ここどこだったかなと視線を落とすと、右下の日付は僕らが付き合う遙か前…。

一緒

#twnovel 「ブランド物を新作が出る度に欲しがる女とは付き合いたくないよな。だってどれもこれも元々は動物の皮と石油だろ?何だって一緒だよ」「それを言うならお前も俺も、あのイケメンやエリート達と同じ元素で出来てるんだぜ。一緒だよな」「あー、一緒になりてぇな」「そうだな…」

冷やし中華始めました

#twnovel 「冷やし中華始めました」いくら何でも早すぎるだろうと思いつつ、気になって暖簾をくぐる。注文を取りに来た店員に興味本位で聞いてみた。「冷やし中華ありますか?」「ございますよ。温かいのと冷たいの、どちらになさいますか?」

2012年1月19日木曜日

ハサミ

#twnovel 妻が調理用ハサミをいくつも買ってきた。「これが肉用でこっちが魚用、これはね…」説明しながら嬉々として食材を切断していく。「怖いこわい。俺も肉バサミで切られないように気をつけなきゃな」妻はキョトンとした顔を俺に向けた。「何言ってるの。脂身用はこれ、間違えないでね」

話の種

#twnovel 僕らは話の種を蒔いて物語を紡ぐ。種がどこから来たのかなんて知らない。どうやって作られるのかさえも。それでも僕らは物語を紡ぐ。種の作り方は知らなくても、育てて実を成らすことならできる。その実がどこに行くのかは知らないけれど。

2012年1月18日水曜日

想い

#twnovel 言葉はいつだって不確かで、どんなに慎重に選んでも想いは伝わりきらない。ノイズをまとい、幾多のやりとりの間で不確かに増長していく。その結果、誤解を生み、諍いが生じ、諦めが漂い、周囲に拡散し、気持ちが揺らぎ、そして今君が隣にいる。「だから愛してるよ」「聞こえません」

チキン

#twnovel チキンが大好きなトサカ君の誕生会には、山盛りのチキンが並べられました。それを見た彼は感極まり、「俺、生まれ変わったらチキンになりたい!」ひとしきりの笑いの後、先生がこう諭しました。「チキンはね、生まれ変わってなれるものじゃないの。死んだ後になれるのよ」

タブレット版魔法のランプ

#twnovel タブレット版魔法のランプ。スクリーンを擦るとランプの精が現れ、画面下のソフトウェアキーボードで願いを入力する。3つの願いのうち入力ミスで既に2つ無駄にしてしまった。「くそ、もっとマシなキーボード出せ!」「承知しました」翌日、Amazonからキーボードが届いた。

さよなら

#twnovel 星へ還るその夜、僕は地球でできた唯一の友人を飲みに誘った。正体を隠してきたことを侘び、今までの感謝の意を伝える。「君の脳から僕に関する記憶を消去する。そういう規則なんだ」差し出した薬を彼は拒んだ。「それには及ばないさ。お前のことなんて3日も経てば忘れるから」

無神経

#twnovel 「彼女に無神経な人って言われちゃったよ。なんか凹むなぁ」「気にするな。雑草という名の草がないように、無神経と言う名の神経も存在しない」「貶してるのか慰めてるのかどっちだお前?」

2012年1月15日日曜日

S-Fマガジン リーダーズ・ストーリィ用原稿とセラエノ第二弾進行中

昨日投稿しました。半年ぶりです。
因みに前回の投稿作は2011年12月号で選評止まりでした。

これからは、来月Pubooにて公開予定の「セラエノの小さな物語〜大人になるまで死ねなかった子供たちの童話〜」用原稿の仕上げに集中します。
今回は複数のプロ作家も参加し、全作書き下ろしのアンソロジー集です。気合いが入ります。

13日の金曜日

#twnovel 「13日の金曜日にジェイソンのマスクを被って彼女の家に行ったことがあってね」「どんな反応だった?」「それが玄関先で黙り込んじゃってさ。それで仕方なく、トリックオアトリートって言ってみたんだ」「アホだな。それで?」「彼女に豆をまかれた」「ちぐはぐすぎだろお前ら」

ソックリさん

#twnovel 子供の頃に流行った遊び。1人を囲み「ソックリさん、ソックリさん、おいでください」と呼びかけるとその人のソックリさんが現れ一緒に遊んでくれる。ただ、「お帰りください」と頼んでも帰らず、本人の給食を食べてしまうケースが相次いだため、学校でのソックリさんは禁止された。

2012年1月10日火曜日

成人式

#twnovel 成人式に一緒に行かないか?と友人からの電話。なに寝惚けてんだよ成人式は昨日だろ、しかも俺らとっくに二十歳過ぎてるしと言いかけて、そいつが成人式の朝に事故で亡くなっていたことを思い出した。車で迎えに来てくれと言い残して電話は切れた。ちょっと待て。それじゃ俺も…。

不良品

#twnovel 30年後の姿が姿が映し出される鏡を買った。30年後に存在しないものは映らない。恐る恐るその前に立つ。くたびれた中年の僕がそこに映った。「その鏡、俺にも使わせてくれよ」「不良品だからって、お袋が返品しちゃったんだ」「不良品?」「寝たきりの爺ちゃんの姿が映るって」

2012年1月7日土曜日

やり繰り

#twnovel コタツがないので脚立で暖をとる。車は買えないから初詣でだるまを買う。全くくだらないことだけど、こんな行為で生活をやり繰りしている。就職先は決まらないが、売り払った臓器の移植先なら決まっている。染みわたる酒だけは本物だ。幸せは来ないけどしわ寄せは確実に来ている。

夢の終わりに

#twnovel 夢の終わりにエンドロールが流れるようになった。これは人生の暗示なのだ。夢の中で僕はそう確信した。人間は一人では生きていけない。自分のあずかり知らぬところで誰かが関わっているのだ。やがて、我が人生のヒロインである愛する彼女の名前が出てきた。え、「友情出演」って…。

見たくないもの

#twnovel 「見たくないものは見ない」そう決めてからどれだけの月日が流れただろう。僕の瞳に映る物は日々減り続け、視界は閉じられていく。でもね、聞くほど悪い話じゃないんだよ。これはこれで快適に暮らせているよ。だから大丈夫、そう伝えたい君の姿は僕の瞳に映らない。

仕事始めは気が重い

#twnovel 仕事始めは気が重い、なんてこぼすと先輩にどやされる。「お前、この仕事向いてないんだよ」確かにそうかもしれない。特にこの時期、客と対面した際の気まずさったらない。「おじいちゃん。餅は小さく切ってよく噛んでって言われてたでしょう?」出迎えた僕が言っても遅いんだよね。

遅れて

#twnovel 「子供の頃、プレゼントがない年があってね。サンタさんが遅れて来るかもって、ツリーを片付ける親を泣きながら止めたんだ」「純真だね。それでサンタは来たのかい?」「正月明けにようやくね」「君の親が何て言い訳したのか気になるんだけど」「今回は船便だったんだろって」